N響定期(6月Cプロ2日目)


日時:2002年6月30日(日)午後2時〜
場所:NHKホール
出演:NHK交響楽団(管弦楽)
   ハインツ・ワルベルク(指揮)
曲目:ベートーヴェン/交響曲第1番ハ長調 作品21
   ベートーヴェン/交響曲第3番変ホ長調 作品55「英雄」

 この演奏会は朝比奈先生が振る予定であった。ここ3回はブルックナーの8番9番、4番で名演を堪能させてくれた。今回は大フィルで何度か聴いたベートーヴェンの1番・3番−多くはチクルスの初回に設定されている−というプログラムをN響がどう聴かせてくれるか、楽しみだった。しかし、それは叶わぬ夢となってしまった。

 この「イロハ」のようなプログラム。ワルベルクだったら良い音楽に仕上げてくれるに違いない。そう思ってホールに足を運んだ。しかし今回は、一回券売り出し前に朝比奈先生の訃報に接していたから、前売り券は買っていなかった。午後1時過ぎにNHKホールに到着。久々に自由席で聴こうかと思っていたが、買う段になって、やはりピット席を選ぶことにした。過去のブルックナーではほぼ毎回ピット席だった。もし朝比奈先生が振っていたら、この席に座っていただろうと思って。

 開演前の室内楽は、トロンボーンアンサンブル。実にすばらしかった。特に最初のガブリエリのマドリガーレは、本当にトロンボーンで「歌っている」というほかない。この時代の曲を何回か歌ったが、あんな美しいトロンボーンと合わせて歌ったら気持ちいいだろうな...と思った。

 さて、本体のプログラム。1番も3番も、ややゆったりめのテンポで、かつ一つ一つの音を丁寧に鳴らしていたという印象。朝比奈先生の芸風だったら、もっとグワーッと鳴らさせるだろうなと思うようなところ(たとえば3番の第2楽章の中程)も、そうはさせないでバランスよく響かせていた。

 ワルベルクの指揮で聴いたのは、数年前のブル9以来であるが、この人は「奇をてらう」というところとほど遠いところにいる。時として(聴き手側の事情によるかも知れないが)、凡庸に感ずることもある。しかし、ベートーヴェンのような「古典」を「きちんと」(堅苦しくという趣旨ではなく)演奏すると、その良さが判るような気がする。決してオケのじゃまをせず、ときには全く棒を振らないで任せてしまうシーンがあった。さすがにN響と頻繁に仕事をしているだけのことはある。ワルベルクはN響ではとくに肩書きがついているわけではないが、定期だけではなく地方公演などにも呼んでいるということは、オケとしてもやりやすい指揮者なのだろう。やりやすいから常に名演になるとは限らないが、オケとしてはそういう関係の指揮者とのつながりも持っておくことは必要だろう。

 それと、大編成でブライトコプフ版でやるベートーヴェンには、理屈抜きに「おいしさ」がある。丁寧に精米した米を炊きあげて、やや塩味の効いた牛肉のあぶり焼きと漬け物を合いの手に、あまり噛まずに喉に流し込んでいく喜びである。こんな食べ方は、決して栄養学的にはほめられた食べ方ではないかも知れない。根っこのある野菜でも入れた塩気の少ない汁と一緒に玄米を食べる方が、体には良いのだろう。それは、理屈としては「正しい」のだろう。べーレンライター版を採用して小編成で演奏するベートーヴェンのように。だから、それを否定するつもりはない。

 しかし、音楽くらい好きなものを聴きたいではないか。別に「伝統」云々でブライトコプフ版にしがみついているわけではない。そっちが聴いていて心地よいからそういっているのだ。だから、これからもブライトコプフ版で大芝居をやってくれるオケが消えないことを願うばかりだ。

 1番の冒頭のピチカートが鳴りだしてからしばらくの間は、ちょっと、朝比奈先生のことを思い出してしまって辛かったけど、それ以外は、久々にN響のベートーヴェンを堪能させて貰った。今シーズンの大トリにふさわしい、良い演奏会だった。

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