NHK交響楽団第1408回定期演奏会(Aプロ1日目)
日時:2000年5月25日(木)午後7時〜
場所:NHKホール
出演:NHK交響楽団(管弦楽)
朝比奈隆(指揮)
曲目:ブルックナー/交響曲第9番ニ短調(ハース版)
前回の8番のときは、本当に自分にとって究極の演奏を聴かせてくれた朝比奈/N響だっただけに、今回も期待大。3月には、ミスターSが違った意味での「ブル9」の好演をプレゼントしてくれたので、それとの対比も楽しみであった。事務所を早めに出て、渋谷駅へ。うさぎと落ち合って、新しくできたマークシティで、夕食。で、ブルックナーを聴かないうさぎは帰宅(笑)。私は渋谷駅から最近できた「NHKスタジオパーク行き」のバスに乗車。これは途中ノンストップで、NHKまで行くが、普通の路線バスよりも安いし、バス停もホールに近いので楽である(マークシティーの正面から出ている)。
午後6時ちょっと過ぎにホールに到着。荷物をクロークに預けて、開演前の室内楽を聴いた。今日は「カルメン」からファゴットを中心としたメドレーと「ポーギーとベス」からのメドレー。前半のみを聴き、客席へ。
今日は前から3列目で右よりの席。プログラムやチラシを見ているうちに開演時間。オケのメンバーが出てきたところで拍手が沸く。お〜N響の定期もウィーン・フィルなみになったのかと思ったら、すぐ止んでしまった(笑)。コンサートマスターは堀さん。チューニングを終え、NHKホールが静まりかえる。そして割れんばかりの拍手の中、朝比奈先生が登場。直にお顔を拝見するのは、昨年11月のサントリーホールでの大フィルとのブルックナーの7番以来か。堀さんと握手を交わし、いつものように聴衆の拍手に答礼し、ゆっくりと指揮台にあがり、ステージに向かう。静かに棒が振り下ろされる。
静かな序奏。そしてだんだん高揚していき金管がオルガンのように鳴り響く。かなりゆっくりとしたテンポで曲は進んでいく。N響は、前回の8番のときも非常に良く鳴っていたが、この日も圧倒的な響き。ホール一杯に分厚い音楽を満たしていた。
気になったのは、いつにも増して朝比奈先生の棒がよく判らなかったことである。一応自分でも合唱をやっているから、「棒を見る」立場に立って見てしまうのであるが、特にブルックナーの9番の場合、パウゼや曲のつなぎ目でかなりテンポが変わったりする。8番や5番は、多少棒が見にくくても大勢に影響はないが、9番の場合はどうか。
ちょうど私の席からは、先生を右側面から眺める形だったのでよく見えたが、見ていて、2つ振りなのか4つ振りなのか判らず、素人目にはひやっとするような場面があった。明らかにテンポが動かないところであれば、4つ振りを2つ振りにしてもビクともしないだろうが、動きのあるところでそれをやられると、ちと辛い。数年前の「アフィニス夏の音楽祭」で朝比奈先生が混成オーケストラとブラ1をやったときに、第4楽章の序奏で、やはり、明らかに振り方の不統一で大きく乱れたことがあった。また、新日本フィルとのベートーヴェンチクルスの「第9」でも同じような乱れがあった。それを思い出してしまった。
第1楽章最後の、ユニゾンからトゥッティになり終結部に至るまでのところが好きで、おとといくらいから、頭の中にずっーと鳴っていた。今日の響きは、期待していた以上の力強く分厚い音楽で、全身に力が入った。第1楽章の終わったところで、思わずふーっと息を吐き、天井を見つめた。第2楽章では、楽章の最後のところで勘違いされたのか、もう一回リピートをしそうになっていた。一瞬ドキッとして、私は下を向いてしまった。リピートといえば、−おそらくもう楽譜は全て頭の中に入っていて問題はないのだろうが−最初のリピートのときに、振りながら盛んに楽譜をあちこちめくっているところが見えたりもして...。
そして、第3楽章。冒頭の金管が奏でるコラールが実に美しい。そこからは、あのうねるような音楽が続いていく。ミスターS/読響のサントリーホールでの演奏では、ここで大きく乱れてしまった。まして朝比奈先生の「あの」棒であるから、よけい心配になる。堀さんを見ていると、大きく弓を使ってオケ全体をまとめているのがよく判る。今日の座席だと、よけいにそれが判って、聴いていて一抹の寂しさを感じ、疲れてしまった。
オケから出てくる音楽は素晴らしい。朝比奈サウンドを堪能させてくれた。しかし、それだけに...。「弾いてるのはプロのオケだぞ。アマチュアの合唱団と一緒にするな」と言われればそれまでだけれど...。繰り返すが、オケから出てくる音は素晴らしい。ゆったりとしたテンポで朗々と鳴り響く。金管のヘクリも全くと言っていいほどない。まさしくオルガンのような響き。私はこういうブルックナーが、好きだ。前回の8番のときは、朝比奈先生がN響のポテンシャルを最大限に引っ張り出した名演だったが、今回は、N響が朝比奈先生の意を最大限に組んで、見事な演奏を展開してくれた。朝比奈ファンとしては、N響に心から感謝しなければならない。
最後の音が消えて、しばしの静寂。フライング拍手もない。先生が手を下げ、力を抜いたところで少しずつ拍手が広がりはじめ、やがて広いNHKホール全体が拍手で溢れる。数回のカーテンコールがあり、オケのメンバーが引き上げた後、拍手が消えそうになったが、一階席前方に集まったファンが続けた拍手で、先生が一度だけ登場された。5番とか8番のような圧倒的な響きで終わる曲ではないから、お客さんのテンションもそう高くないのかも知れない。もともと定期会員が多く、その人たちにとっては、朝比奈先生は「定期の1回」に過ぎない人もいるだろう。また、私と同様の気持ちを抱いた人も居たかも知れない。終演後、N響ガイド横の楽屋口近くにファンが集まっていた。私も、下までは降りず、ホール出口横の階段上から、先生が出てこられるのを待ち、見送った。明日もまた、力強くボリュームたっぷりの音楽を堪能させてくださいと心でつぶやいた。
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