ウィーン、我が夢の街(18)



 しばらく高速道路を走ったところで、下に降りた。

 最初に訪れたのが、シューベルトの「菩提樹」に出てくる菩提樹の樹、そして「泉」。泉といっても、森の中の木々に囲まれたところにあるそれではなく、井戸であった。そして、「もとの水車小屋」。これも、日本の昔話に出てくるような、川のほとりの小さな丸太小屋ではなく、かなり大きな建物であった。現在はレストランのようになっていて、建物の壁には、「菩提樹」の一節が刻まれていた。

菩提樹の傍らにある「井戸」 水車小屋


 それにしても、車窓から見える町並みの、何と美しいことか。緩やかな坂道にそって、いろいろな商店が軒を連ねているのであるが、けばけばしさをまったく感じない。ウィーンの中央部もそうであるが、町並み・景観を壊さないという意識が人々の根底にあるのだろう。もっとも、こうした町並みこそが「飯のタネ」だから、自ら商品を壊すわけがないという見方もあろうが、これは穿ち過ぎだろう。

 続いてバスはハイリゲンクロイツの修道院へ。徒歩で中庭に入り、そこから回廊、墓所などを回る。そして大聖堂。建物が何回かにわたって増築を繰り返されているため、途中で建築様式が変わっていたりするのがよくわかる。

 売店でグレゴリオ聖歌のCDを売っていたので、買い求めた。その他には美しい絵葉書を何点か。

 ついで、バスはマイヤーリングへ。マイヤーリングといえば、あまりにも有名な「うたかたの恋」。映画では、ジャン・マレーとダニエル・ダリウだったか...。フランツ・ヨーゼフとエリザベートの皇子ルドルフと、マリー・ヴェッツェラの遂げた謎の死の物語の現場である。現在はカルメル派の修道院となっていて、一部を見学できるだけであったが、もと狩猟のための館であったことが、山と緑に囲まれた周囲の風景から推し量ることができる。

 この二人の死の真相については、謎の部分が多く、数年前にマリー・ヴェッツェラの遺骨がなくなっていたことまで判明し、未だに「これが真相だ」という本が出版されているようだ。

 再びバスにのり、美しい川沿いの道を走っていく。途中、レストハウスに立ち寄り、ケーキとコーヒーを楽しむという行程になっている。バスツアーに組み込まれている店など、たいしたことはないだろうと思ったら、とんでもない。美しい緑に囲まれた、宿泊施設のあるレストランであった。こうした団体客はよく立ち寄るようであったが、妙に団体客ずれしておらず、非常に丁寧な接客ぶりに好感が持てた。

 ザッハトルテとヨーグルトケーキを注文し、うさぎと半分ずつ食べる。ウィーンのお菓子は物凄く甘いと聞いていたのであるが、ヨーグルトケーキはもちろんのこと、ザッハトルテもそれほど甘すぎるという感じではなかった。

ザッハートルテ ヨーグルトケーキ


 ケーキとコーヒーを楽しんだ後、出発までの時間を、周囲の散策で楽しんだ。建物の裏手は緑の広場になっていて、その向こうは川。ややひんやりとした山の空気を楽しむ。

 散策を済ませてバスに乗り込む。山道を抜けると、沢山のホイリゲが並んでいる。バーデンの街に下りてきたのだ。昭和50年のウィーン・フィル来日の際のプログラムに「新酒を置いている酒場の入り口には、そのしるしに木の枝がつるされている」とかかれていたとおりの景色が、そこにあった。

 バスでバーデンの街を抜けると、今度は、広大なブドウ畑。まだ新芽は出ていなかったが、若葉のころになったら、すばらしい緑のじゅうたんになるのだろう。バスは再び高速道路に入り、ウィーン市内へと向かっていく。まだ午後5時前で、日は高い。郊外からウィーン市内へと戻る車が多く、交通量はかなりのものであった。

 そして、午後6時前に、国立歌劇場前に戻ってきた。まだ国立歌劇場横のアルカディアが開いていたので、国立歌劇場のロゴの入ったネクタイやブロマイド、そして楽譜などを買いもとめた。すでにドブリンガーで楽譜を大量に購入しており、荷物がだいぶ増えているのであるが、どうも歯止めが利かない。

 荷物を下げて、夕食に向かう。当然の事ながら、ミューラーバイスルに行く。

 まだ、ウィーンに来て、ウィーナーシュニッツェルを食べていなかったので、私はそれをメインに。うさぎは白身魚のフライ。それとオードブルに、初日に頼んだニシンのマリネを一皿だけ。

 ウィーナーシュニッツェルを注文したら、奥の厨房から「ドンドンドン」と肉をたたく音が聞こえてきた。これで安心(笑)。しばらくしてから、まずはニシンのマリネ。これをつまみながら、スプリッツァー(ワインを炭酸水で割ったもの)を楽しむ。そして大きなカツレツと、小ぶりのボール一杯分くらいのサラダが登場。面積は煉瓦亭の大カツレツ以上であるが、薄いので、けっこうスッスッとおなかに入っていく。ちょうど、満腹。

 気持ちよく酔い、おなかも満腹になったので、すぐには帰らず、ケルントナー通りを散歩する。ショッピングビルに入り、ウィンドウショッピングを楽しみ、母への土産などのあたりをつける。

 適当に腹ごなしができたところで、ホテルに戻る。いよいよ、明日は国立歌劇場で「リエンツィ」を観る日だ。


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