ウィーン、我が夢の街(8)


4月3日(3日目)

 午前8時前。今日も気持ちよく目が覚めた。部屋の窓を大きく開けてみる。結構暖かい。昨日の朝は、前日の夜に雨が降ったこともあってか、ちょっと肌寒かったが、今日はそうでもなさそうである。

 着替えて1階に降りていく。今日は、午前中に中央墓地まで行き、午後は美術史美術館へ。一旦ホテルに戻り、着替えをして夕食、そしてムジークフェラインザールでウィーン交響楽団の演奏会を聴くという予定である。

 昼食や夕食でかなりボリュームのあるものを食べるので、朝食を食べ過ぎないように注意する。そう思いながらも、黒パンやチーズが美味しいので、結構食が進んでしまう。

 朝食を終えて、外の気温を見るために、玄関から外に出てみる。暖かい。今日はコートなしで出かけることにする。

 部屋に戻ろうとすると...あらら。部屋の扉が開いていて、中で掃除が始まっている。食事に行くときに、ドアノブにプレートをかけていかなかったから、もう出かけたと思ったらしい。おずおずと入っていくと、色白の「ウィーンのおっかさん」みたいなおばさんがお風呂場を掃除していた。「グリュス・ゴット」と声をかけると、驚いたように「グリュス・ゴット」と返事をした。

 これから掃除機をかけるようだったので、部屋にいても邪魔になると思い、しばらくの間1階に行き、時間をつぶす。15分ほどして戻ると、もうすんでいた。

 ジャケットをひっかけ、ホテルを出る。とりあえず本能のようにU4に乗り、カールスプラッツ駅に行く(^_^;)。71番の路面電車に乗るということは聞いて知っていたが、どこから乗るのかを調べていない。しかし、あの辺を走っていた記憶はあったので、とりあえず行ってしまう。

 カールスプラッツ駅で、ふと思い立ち、日本の実家に電話をすることにした。クレジット・カードの使える公衆電話を探し、カードを通し、0081−3−3***−****とダイヤルすれば、日本に直通で電話ができる。呼び出し音がなり、「もしもし・・・」無事通じた。母と3分ほど話をする。7時間時差があるので、ウィーンは午前10時だと、日本は午後5時。夕食の支度をしている時間であった。楽しく過ごしている旨をつたえ、電話を切る。

 さて環状道路に出た。カールスプラッツの停車場には71番の表示が無い。地図を見ると、ムジークフェライン方面に行った、シュヴァルツェンベルグプラッツ(Schwarzenbergplatz)という駅から出ているようなので、そこに向かって歩く。あったあった。71番という電車が止まっている。

 とりあえず乗り込んだが、なんとなく不安である。終点の一つ前といっても、知らない間に終点まで終点まで行ってしまったらどうしようとか、いろいろと考えた。

 我々が不安そうな顔をしていたからか、向かいに座った女性が、「キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ?」と話しかけてきた。「ア・リトル」と答え、「ウィー・ワント・ゴー・トゥー・ゼントラルフリードホフ ムジカ。ディス・シュトラッセンバーン・イズ・オーケー?」という英語とドイツ語のごっちゃな言葉で話した(^_^;)。なんとかこちらの言いたいことを理解してくれたらしく、「イエス。オーケー。」と教えてくれた。

 すると、今度はうさぎが、地図を出して、「音楽家のお墓に行くにはどこで降りればいいのか。」ということを聴こうと試みた。「お墓は広い。違う停留所で降りてしまうと、長い距離を歩かなければならない。2というところで降りると、門の前。」と教えてくれた。

 その後は「ウィーンが好きですか?」と聞かれたので、大好きですと答え、音楽が好きで、今日はウィーン交響楽団を、明日はウィーンフィルを、そして6日にはオペラに行くといったら、ウワオと驚かれた(^_^;)。

 その人は、下り際に、「私はここで下りるけど、ここから7つめだから」と教えてくれた。丁寧にお礼を言った。ほんとに親切な人に助けられた。あとは、車内の停車駅案内のアナウンスに気を配りながら、路面電車の旅を楽しんだ。

 墓地が近づいてきたのは、すぐ判った。道路に墓石屋さんが見えはじめたからである。ほとんど、小平や多麿霊園と同じ感覚である(笑)。そして、中央墓地第2門に到着。我々だけではなく、観光客が沢山下りたので、まったく問題はなかった。墓地の入り口近くでは、花屋さんが、「花輪はいらんかね〜」と言わんばかりに、我々に向かって花輪を持ち上げて見せている。

 入り口を入ったところで、地図を見る。32Aというのが音楽家の墓地のあるところだ。みると、入り口からとりあえずまっすぐ行けばよい。広い道をまっすぐに歩いていく。しばらく行ったところに32Aの表示。さらに、ムジカというプレートが出ている。

 あった。ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、ヨハン・シュトラウス、ヴォルフ...毎年ウィーン・リング・アンサンブルが聴かせてくれるヨーゼフ・ランナー、そしてスッペも、ここに眠っている。

ブラームスのお墓 ベートーヴェンのお墓


 関西弁のおばさん集団が来て、ベートーヴェンのお墓の前で「第9」を歌い出したのには、たまげたが(^_^;)、写真を撮ってもらったりしたので、まあ、いいとしよう(笑)。

 墓地にある教会では、お葬式があるようで、喪服を着た人たちが、続々と向かっている。

 再び、入り口に戻る。汗ばむほどの陽気になってきた。日差しも眩しい。

 ここの並木道が、「第三の男」のラストシーンに使われたそうな。

 門の前で、写真を撮る。

中央墓地2番入口 中央墓地2番入口に停車する路面電車


 今度は、反対方向の路面電車に乗り、また、中央部に戻る。時計を見ると、11時30分くらい。戻ったら昼食時である。途中、停留所でないところで、電車が急に止まった。運転手さんが外に下りていったと思うと、すぐ乗ってきた。はて...線路にゴミでも詰まっていたのだろうか。この謎は、環状道路に戻ってきたときに解けた。何と、運転手さんが、自分でポイントを切り替えているのである。しかも手動(バールのような工具を使う)で。

 乗車した始発駅まで戻ってきた。電車を降りると、春の日差しが燦燦と降り注いでいる。さて、どこでお昼を食べようか...。とりあえず、環状道路をブラリブラリと歩いていると、表にランチメニューの表示が出ている。

 うさぎは、お肉を食べないので、ともかく魚があるかどうかがポイント。じーっとメニューを見て、解読を試みていると、ワイシャツ姿のカッコイイ店長さん(だと思う)が出てきた。すかさず「グリュス・ゴット!」とあいさつをして、「シー、キャンノット、イート、ミート。フィッシュOK?」という、もう赤面しそうな英単語の羅列(^_^;)。しかし、これでも通じたらしい。自分の目で料理を見てくれということらしいので、見せてもらった。

 肉料理は、ハンバーグステーキのトマトソース煮にサフランライスが添えられている。魚は、白身の魚のムニエルのサフランソース。スープは、カリフラワーを裏ごししたポタージュスープ。これで魚は75シリング。肉は85シリングである。客層をみると、近くのビジネスマンが多いようだ。

 これならOKということで、お願いして、席は室内ではなく、オープンの席にしてもらった。環状道路を挟んで、向かいは市立公園。日の降り注ぐテラスでの、のんびりとした昼食を楽しむことになった。

 まずはスープ。よく裏ごしされていて、非常にまろやかな味。メインは、まぁ平凡と言ってしまえばそれまでであるが、市立公園を道の向こうに、そして環状道路をゆっくりと走っていく路面電車を眺めながらの食事。それ自体が、実に楽しい。

 せっかく天気がよく、テラスに座ったということで、食後にコーヒーをということになった。うさぎはブラック、私はミルクを泡立てていれたメランジェを頼んだ。

 コーヒーを口に運びながら、過ぎ行く時間を楽しむ。燦燦と輝く初春の日の光をいっぱいに浴びて、頭の疲れがすーっと抜けていくのを実感する。日本でくすぶっていては、到底味わうことの出来ない至福を感ずる。

 30分ほどくつろいでから、美術史美術館に向かう。


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