ウィーン、我が夢の街(7)


 時刻は夕方の5時過ぎ。しかし、まだまだ「夕方」というには程遠い。再びホテルを出て、ピルグラムガッセ駅から地下鉄に乗車。

 ここで地下鉄の雰囲気について書いておこう。地下鉄はいくつかの路線があるが、1〜4号線については、同じ車両が使われており(細部では違うところもあるのかもしれないが、気がつかなかった。)、東京の営団地下鉄のように、路線によって車両のデザインが違うということはなかった。

 収電は全て第三軌条方式(丸の内線・銀座線と同じ)で、パンタグラフはなし。乗務員は運転手だけで、車掌は乗っていなかった。各車両の連結部分には移動用の通路がない。座席は4人がけのボックスが中心であった。

地下鉄の車内 地下鉄の座席


 駅には切符に乗車時刻を印字する機械があるだけで、乗車券の回収はなし。年に何回か検札に遭遇することもあるそうであるが、我々は滞在中に一度も遭遇しなかった。要するに信頼関係があるということなのか...。カールスプラッツ駅のU4のホームからエレベーターに乗って降りたら、改札の外に出ていて驚いた。日本では考えられないことであった。

 またもや地下街を通り、国立歌劇場前に向かう。途中、新聞やら雑誌を売っているお店で、絵葉書があるのを見つけ、物色。国立歌劇場のと楽友協会のがあったので、これを数枚ずつゲット。

 ブラブラと歩いて、地上に出る。まだ夕食にはちょっと早いので、国立歌劇場脇にある「アルカディア」を覗く。CDのたぐいは、日本でもタワーやHMV等ができたこともあり、特に「うおっ」というものはない。絵葉書やグッズ類を中心に物色する。国立歌劇場の125周年で発刊された小振りの写真集があった。日本語版は売り切れのようだった。その他にも、国立歌劇場が刺繍されたネクタイなどがある。普段は、この類のものにはあまり手を出さないのであるが、ここでは完全に屈服してしまった。とはいえ、土産物を買うのは後半にと考えていたので、この日は物色にとどめた。

 今日の演目のポスターを見る。この日も「リエンツィ」がかかるということなので、ポスターの前で写真をとった。

 さて、夕食はイタリア料理の店に行こうということで、ケルントナー通りの、ホコテンになる前のところを右折したあたりにある店に狙いを定めていった。ところが、行ってみるとかなり高級そうなので二の足を踏んでしまった。表示も「リストランテ」となっているので、パスタだけというわけにはいかなそうである。そこで、他のイタリア料理の店を捜そうということで、街の中をブラリブラリと歩き出した。

 いつのまにか、マクドナルドのある通りへ。ここは昼にKさんが連れてきてくれた店のある通りである。そのまま歩いていると、店の近くに来た。あれ。店の前に出ている椅子に座っているのは...Kさんだ。Kさんもこっちを見つけてくれて、「あれ〜。」。思わぬ再会に驚く。

 誘われるままに、表のテーブルに座る。Kさんが「あ!丁度よかった。今、お店の中に、ニーダーマイヤー先生が来てるよ。今日は仕事の話してて、酔っ払ってないから。出てきたら写真とりなさい。」と言い出した。思わぬ展開に驚く。

 Kさんに勧められるまま、白ワインのソーダ割り(スプリッツァー・ヴァイス)を注文。Kさん、Kさんのアシスタントの女性(日本語が上手い)、常連さんの大蔵省の役人(^_^;)、我々で乾杯!。

 大蔵省の役人さんは、もうかなり出来上がっていて、フーラフーラしながらも、ワインをごくりと飲んでいる。午後7時くらいでこの状態だと、アフター5ですぐ来ているようだ。深夜まで役所に居ることが仕事になっているような、どこかの国のMOFとは、えらい違いである。

 白ワインのソーダ割りを飲んでいるうちに、もう一人のお客さん。日本の某大学の客員教授が、たまたま通りかかったのだ。この方もKさんの知り合いということで、テーブルに話の輪が広がっていく。我々よりも遥かに整った日本語を話されるのに驚く(^_^;)。

 うさぎが代々木上原から、飯能の先にあるSG台大学の大学院に通っていると言ったら、「まぁ!あんな遠くまで。私だったら3日で倒れてしまいます。」と言われた。ウィーンで飯能を知っている人に会うとは(笑)。

 あれこれと話をしているうちに、Kさんが店の中に入っていって、しばらくしてから出てきた。「ニーダーマイヤー先生が出てきますよ!」 ちょっぴり緊張。ニーダーマイヤーさんは映像の中でしかみたことがなかった。

 ほどなく、薄手のコートをまとった、大柄の男性が出てきた。ニーダーマイヤーさんであった。Sさんが簡単に我々を紹介してくれた。得意になった日常会話「グリュス・ゴット」を使う(笑)。握手をしてもらった。物凄く大きく、そしてやわらかな手。この大きな手でフルートを操るから、素晴らしい演奏ができるのかなぁ...と思った。

 Sさんから、「会って、どういう印象ですか?」と聞かれたので、「凄く不思議な気分です。いつもは、客席やテレビで、ステージにいる姿しか見たことが無かったのに。」と言った。Sさんがジェスチャー交じりで通訳してくれると、「アッハハハ」と笑っていた(^^)。Sさんは上機嫌で、写真をとりましょうと言ってくれた。もちろんカメラを持ち歩いていたから、お願いして、ニーダーマイヤーさん、うさぎ、私の3ショットの写真をとってもらった。

 ニーダーマイヤーさんは、その後も行かれるところがあるようで、お別れのご挨拶をして去っていかれた。

 その後も、しばらくワイン片手に雑談。Sさんと名刺を交換。私の職業を知ったSさんが、「日本のA&M(一応匿名だが、業界人だとこれで略称で通じてしまう(笑))という事務所をご存知ですか。」と問い掛けてきた。ここには私の同期もいるし、よく知っていたので、その旨答えると、「ここのA川さんという方と知り合いで、この方も音楽が非常にお好きだから、日本に帰ったら電話をしてごらんなさい。」とのこと。世間は狭いものだ。

 ヴァイオリン片手の音大生も仲間に加わり、わいわいと盛り上がった。時計をみるともう8時。そろそろ夕飯を食べに行かないと・・・ということで、おいとますることに。皆と握手を交わし、その場を離れた。スプリッツァーと楽しい語らいに気持ちよく酔い、石畳の細い道を歩き出した。空を見上げると、月がぽっかりと浮かんでいる。あぁ、なんと幸せなときをすごしているんだろう。

 さて、夕食。あちこち物色しているうちに、イタリアの国旗が出ている店を見つけた。しかし中を覗き込むと、あまり人が入っていない。見ると「リストランテ」になっている。その横に「トラットリア」という表示があり、こちらの方は賑わっている。ということで、こちらに入ることにした。

 入って「グリュス・ゴット。ツヴァイ。」と言い、席に案内してもらう。メニューを見ながらあれこれと思案した挙げ句、オードブルにトマトとモッツァレラチーズのサラダを1つ、あとはトマトソースのスパゲティーとペペロンチーノスパゲティーにした。

 テーブルには、チーズ風味の長いクラッカーと、パンが置かれている。しばらくして、オードブルが登場。モッツァレラチーズは、ちょっとはんぺんのような感じ。トマトは甘くて美味しい。オリーブオイルとバジルの香りがかぐわしい。

 これは、スパゲティーも期待できるかなと思ったら...残念。要するに麺が柔らかすぎるのである。ソースはとても美味しかったのだが...。ま、たまにはハズレもある。

 食事を終えて、少し散歩をする。少し歩いたところで、足が止まった。あ。ここだったんだ。音楽書や楽譜等の専門店のドブリンガー(Doblinger) である。今日はもちろん閉店しているが、一度場所を覚えておけば、次に来るとき便利だ。しっかりと、ケルントナー通りに出る道筋をチェックする。

 また、ケルントナー通りに戻ってきた。店は閉店しているのに、まだまだ沢山の人が行き交っている。このあたりの店は、閉まっていても、ショーウィンドウに沢山の商品を見やすく展示しているので、本当の意味での「ウィンドウ・ショッピング」が楽しめる。我々も大通りに面した店を覗いていく。うさぎはフェラガモの靴やカバンを置いている店が気になるようである。

 国立歌劇場前に戻ってきた。地面に座り、手を出している。物乞いであるが、実にわかりやすい(^_^;)。われわれは「単刀直入な物乞い」と名づけていた。このほかにも、祈りのポーズをとっている「敬謙なる物乞い」、地下鉄に乗り込んできて(改札がないので、フリーで入ってこれる)、「グリュス・ゴット、○シリング、ビッテ」と言う、「礼儀正しい物乞い」、などのパターンに遭遇した(^_^;)。

 地下鉄に乗りこむ。すでに午後10時過ぎであるが、車内では、地下街で買った巨大なピザを食べているおっさんがいたりする。こんな遅くにあんなもん食ったら、胃がもたれないのだろうか...などと考えているうちに、ピルグラムガッセ駅に到着。ホテルに戻り、入浴。今日も良く遊んだ〜。冷たい水を飲みながら、絵葉書をとり出し、数枚書いたところで眠気に勝てず、就寝。2日目が終わった。


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