ウィーン、我が夢の街(6)



 無事、ウィーンフィルのチケットを受け取り、市立公園に行こうということで、とりあえず国立歌劇場まで戻ることにした。

 途中、シュテファン教会前を歩いていると、「コンニチワー、オゲンキデスカー」と日本語で話しかける声。振り返ると、なんとモーツァルト・・・のコスチュームを着た青年が。もちろん、コミケをやっているわけではない。観光客向けにコンサートのチケットを売っているのである。

 内容は、モーツァルトやウィンナ・ワルツなど軽めの曲を、シェーンブルン宮殿の一角や、ときには楽友協会の大ホールで演奏するというもの。服装は、昔の王朝時代のもので行われるそうな。

 オケは、フォルクスオーパーのオケのメンバーで構成されているものもあるとか。要するに、日本のお正月に来日する「ウィーン・ナントカカントカ」というのと似たレベルのもののようだ(ウィーン・リングアンサンブルは例外!)。

 ガイドブック等によると、この、コスプレチケット売りの青年たちは、大学生のアルバイトが多いとか。というわけで、彼らも、我々を、単なる日本人観光客と見て声をかけてきたのだろう。しかし、残念ながら、この時点で、我々は「リエンツィ」「マタイ」「ブルックナー」と、かなり濃い先約が入っていたため、彼らのお誘いには乗らなかった。うさぎなんぞは、「ヘッ。元気じゃなかったら、こんな遠くまで来るかね。」などと文句をたれている(笑)。

 再び、国立歌劇場に戻ってきた。歌劇場横の「アルカディア」というグッズ売り場の前を通り、「ヘルベルト・フォン・カラヤン広場」を歩いていると、背広を着た男性とすれ違った。今度は、うさぎは見向きもしなかったが、私は「あっ」と思わず声を上げそうになった。ウィーン・フィルのコンサートマスターのウェルナー・ヒンク氏であった。

 考えてみれば、当たり前のことなのだ。ウィーン・フィル(国立歌劇場管弦楽団)のメンバーが、仕事場である国立歌劇場の近くを歩いていることなど。しかし、ウィーン・フィルのメンバーが街を歩いているなんて、なんて凄い街だろう、とついつい思ってしまう。

 市立公園に向かおうと思ったが、その前に一度路面電車に乗って環状道路を一回りしてみようということになり、カールスプラッツから路面電車に乗った。

 この路面電車も、72時間有効のチケットを持っていれば、自由に乗り降りすることができる。乗り降りの際には自分でボタンを押してドアを開けなければならないと聞いていたので、日本のワンマンバスのように、誰もボタンを押さないと通過してしまうのではないのかと心配していた(駅名が聞き取れないこともあるので)が、誰もボタンを押さなくても各駅に停まっていたし、アナウンスがあってすかさずボタンを押さずとも、停まってからゆっくりと立ち上がり、ボタンをおして悠々と降りていく人がいたのをみて、安心した。また、地下鉄・路面電車・バスとも、車内アナウンスが非常にはっきりと聞き取ることができ、駅名表示ある地図さえもっていれば(もちろんドイツ語表記が全く読めないと、ちょっと辛いものはあるが・・・)何とかなった。

 環状道路沿いにほぼ一周。途中で、車窓から、先ほど一緒にお昼を食べた二人連れが歩いているのが見えた。

 途中、市立公園(Stadpark)の停留所もあったが、ともかくカールスプラッツまで行くことにし、カールスプラッツ戻ってきたところで下車。反対方向の路面電車に乗り、市民公園で下車した。

 市立公園でのお目当ては、もちろん、音楽家の像。あの、ウィーン・リングアンサンブルのプログラムに載っている、金色に輝くヨハン・シュトラウス。20分に一回ぐらい、団体客が来ては、像の周りに群がって写真をとり、また居なくなる。その間に自分たちの写真をとった。

J.シュトラウスとうさぎ 我が敬愛するブルックナー レハールって誰?(笑)

 レハールやロベルト・シュトルツの像には、誰も目もくれない。二人ともウィーンのオペレッタ(シュトルツはウィンナ・ワルツの指揮者としても)の大功労者である。

 そして...我が敬愛するアントン・ブルックナー。他の像が白っぽいのに対して、この像は黒い。黒いがゆえに、鳥の落とし物で汚れていたりして、それをまたうさぎが喜んでいるのが悔しい(^_^;)。しかし、そんなことは問題ではない。今回はリンツまでは行けないので、ブルックナーの像を写真に収め、またツーショットの写真をとってもらう。

 ベンチで少し休憩した後、今度はシューベルトの像の前で、写真をとった。

 ひとあたり写真をとり終えたところで、今度はムジークフェラインザールへ。この日の朝、ホテルにある観光代理店から予約してもらった翌日のウィーン交響楽団のチケットを早めに引き換えておこうということである。

 公園の前の環状道路を、再び国立歌劇場方面に戻る。大きくカーブした先のところを、少しすぎると、環状道路から奥に入ったところに、エンジ色の建物がちらりと見える。環状道路から横道に入り、道路を一本隔てたところに、楽友協会の建物は、あった。

 あの、1月1日にニューイヤーコンサートの生中継がはじまるときの、まさしく同じ画像が目に入ってきた。ムジークフェライン前に立っているのだ。「そんなに何でもかんでも感動してたら、疲れて仕方がないだろう。」って?。そりゃ、そうだけど、20年ちかく、ずーーっとテレビや書物だけで見ていた、あのホールの建物が目の前にあるんですぜ。

 雨がパラパラと降ってきたので、急いでチケット売り場を捜す。正面からみて右側にあった。中に入って、窓口で、予約したときに貰った書類を提出する。すぐ端末をたたいて発券してくれた。これで、明日のコンサートのチケットも確保。時刻は午後3時30分頃だった。

 朝からずーっと出ずっぱりで、ちょいと疲れたので、ホテルに戻って休養し、それから夕食に出かけることにした。もう地元の人間のように(笑)軽快な足取りで、カールスプラッツ駅に戻り、U4に乗車。今度は降りるとき自分でドアを開けてみようと思い、ドアの近くに立つ。うさぎも両開きとびらのもう一方の前に立った。

 ピルグラム・ガッセ駅に到着。ドアのハンドルを外に押すようにして倒す。そうすると軽くドアが開く。うさぎもガチャガチャとやっているが、開かない(笑)。真横に力任せに引っ張っているのだもの。慌てて開いているほうのドアから飛び出してきた。

 ホームには、夥しいポスターが張られているが、その中にムジークフェラインのコンサートのものが、かなりある。マキシム・ヴェンゲーロフ、キュッヒル・カルテット、リコ・グルダ...。駅の階段を上がったところの道路端には「第9」のポスターが。スロバキアとオーストリアの国境近くにあるブラティスラバのオケと合唱団の公演のようだ。クラシックのコンサートのポスターが日常的に貼られている街。あ〜なんて素晴らしいところだろう。

 ホテルの部屋に戻って、ちょいと休憩。よく歩いたので、バスタブに少しだけお湯を張り、足湯をする。実に心地よい。ベットに体を横たえ、テレビをつけてみる。CNNの英語版だけをのぞけば、あとは全部ドイツ語。なんだかよく判らないので、消してしまった。

 少しだけウトウトとしてから、再び出かけるしたく。今度はイタリア料理でも食べてみようかということで、再びカールスプラッツに向かう。


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