大町のブルックナー


日時:平成11年7月7日(水)午後7時〜
場所:東京オペラシティコンサートホール
出演:東京フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
   大町陽一郎(指揮)
曲目:ブルックナー/交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版)


 大町陽一郎という人が指揮者であることはもちろん知っていましたが、なかなか指揮台に立つのに出会いませんでした。エッセイやらウィーン関連のコメンテーターみたいなことでしか見たことがなかったし...。

 5月に大阪で大阪センチュリーと大阪シンフォニカーの合同オケでブル8をやったときの評判が結構よかったことと、もちろん、曲がブルックナーであることとで、足を運ぶことにしました。

 この日は、夕方まで霞ヶ関で仕事。幸い納得がいく出来で、比較的後味のよい疲労を引きずりながら、桜田門駅から有楽町線に乗車。市ヶ谷で都営新宿線に乗り換えて、初台に行きました。

 前日も、オペラシティコンサートホールで演奏会があったので、地下のボッカータで食事をしましたが、この日も同じくボッカータ。ビールで喉を潤し、牛肉のカルパッチョをつまみ、メインは明太子ベースにシラスとネギをあしらったパスタ。

 食事をしてから、チケット売り場に並び、当日券を購入。なんと、2階正面のバルコニー席の最前列ほぼ真ん中という席が残っていました。どうも、今一つ売れ行きは悪かったようで、朝日新聞のマリオンのコーナーで招待券をかなり出したらしく、アントン教団とは程遠い善良な人たち(笑)がチケットを受け取っていました。もちろん、「その筋」の人たちもいまして、私の後ろの学生と思しき男の子二人は、チェリのボックスを買ってきたようでした。

 午後6時30分過ぎですが、まだ明るく、ホールに入ると、自然光を取り込む天上の窓からは、青空が見えていました。午後7時。開演の合図。そこそこ座席は埋まりました。ステージ袖の扉が開いて、楽員が三々五々...と思ったら、大町氏だけが登場。ブル8についてのプレ・トークがありました。

 改めて空になったステージに楽員が入ってきてチューニング、そして再び大町氏が登場して、いよいよ演奏が始まりました。序奏で金管が一瞬ぶれましたが、後は落ち着きました。そして...曲が進んでいくうちに、「おいおい。これ、結構いけるよ。」という気持ちがだんだんと強くなっていきます。理由は一つ。ともかく、余分な飾りが全くなく、テンポがぶれないのです。

 私のブルックナーの8番の刷り込みは、ベームが80歳のときに、ウィーン楽友協会から表彰されたか名誉会員の称号を得たかで、その時の記念演奏会でVPOを振ったときのものでした(NHK−FMで放送された)。大町氏の演奏は、あのときの演奏に一番近かったのです。朝比奈先生のは結構アッチェルランドをかけたり、テンポを揺らします。

 それでいて、弦の裏に入っている管の旋律(ブルックナーというと、金管がブワーッとなっていて、その陰で弦がギコギコやっているというイメージがあるようですが、かならずしもそうではありません(笑))を意図的に浮き立たせてみたり、なかなか面白かった。

 第3楽章あたりになって、ふと天井を見上げると、いつのまにか明かり取りの窓から見える空は漆黒の闇。珍しく晴れ渡った七夕の夜に、天上からの音楽が降り注いでいました。第4楽章も、へんにアッチェルランドをかけることなく、ややおそめのテンポでどっしりとした演奏を聴かせてくれました。最後のミレドも実に美しかったです。
 ぜひ、次はブル5をお願いしたいものです。
======================= 1999-07-10 (Sat) 23:47:35 ====================


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