NHK交響楽団定期演奏会(99年1月Cプロ/初日・二日目)&1月定期総括


日 時:平成11年2月5日(金)午後7時〜・6日(土)午後2時〜
場 所:NHKホール
出 演:ギャリック・オールソン(ピアノ)
    NHK交響楽団(管弦楽)
    スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(指揮)
曲 目:パヌフニク/ノクターン
    ショパン/ピアノ協奏曲第2番へ短調 作品21
    (ソロ・アンコール)
    ショパン/ワルツ変イ長調 作品42
    ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調 作品67


 いよいよ最後のプログラムになりました。 Cプロの2日目は早めにホールに着き、久々に開演前の室内楽を聴きました。演目が「ウィーンの森のホルン五重奏曲集より」というやつで、Aプロのころから聴きたいとは思っていたのですが、なかなか時間が許さなくて...。

 曲は、オーストリアに伝わる狩りのときに使用されたホルンの合図(うさぎをしとめたとか、狐が死んだとか)をベースにアンサンブルにした曲や、狩りの前に、獲物になる動物を悼むミサ曲(^_^;)とかで、なかなか面白かったです。

 さて。  パヌフニクのノクターンという曲、全くはじめて聴く作曲家・曲目でした。曲は、パーカッションの弱奏で始まり、途中で盛り上がり、最後はまた消え入るようにパーカッションで終わるという感じで、途中の弦楽合奏のあたりは、なるほど「夜想曲」という感じがしました。

 次にショパンのピアノ協奏曲第2番。ピアノはオーチャード定期にも登場したギャリック・オールソンでした。第1番は何回か聴いたことがありましたし、前回のミスターSの棒でも聴きましたが、第2番を聴くのは初めてでした。

 感じたことは、1番をダヴィドヴィチ、2番をオールソンというソリスト選定が実によく考えられたものだったということ。2番は1番よりも、細かい音符をキラキラと散らすようなパッセージが沢山ありますが、オールソンは実にこれを輝かしい音色で堪能させてくれました。1番はふくよかに歌い上げるというところがあり、これはダヴィドヴィチのイメージにとても合っていました。

 ただ2番も、オーケストラとピアノが丁丁発止の掛け合いをやるというよりも、オケはあくまでピアノのサポートをしているという感じがする曲です。それだけに、オールソンのテクニックの冴えを楽しむことができました。

 アンコールには、ショパンのワルツ。「サクヒン ヨンジュウニ」と日本語で曲を紹介して、えらく受けていました。

 そして、最後は「運命」。案の定、通常のブライトコプフ版をそのまま演奏するのではなく、ベーレンライター版を「参照」するという試みがなされました。最初の、「ジャジャジャジャーン」。ものすごい迫力でした。低弦から衝撃波のようなものを感じたほどで、前回の来日公演での、あのシューマンの第4番の頭に匹敵するほどのショックでした。

 テンポは基本的に速めで、普段埋もれている対旋律を意図的に浮き彫りにさせるというお得意の手法で曲が作られていきました。  第2楽章の後半、弦のユニゾンから木管のソロの掛け合いになっていくところ。弦のユニゾンのところでものすごいリタルダントをかけて驚いているところに、初日にはドキッとするアクシデント。

 クラリネットのソロを受けてファゴットのソロが...ゲッ。出てこない。すると、しわがれた声で「ラララー ラララララー」(^_^;)。落ちたファゴットのパートを、ミスターSが歌っていたのでした。

 休みの間にリードをはずして、いろいろ見ていたようでしたから、何か楽器の調子がおかしかったのでしょう。

 初日にこんな事故があったので、二日目は聴いている私がドキドキしてしまいましたが、無事通過してほっとしました。

 第3楽章もかなり速めで、通常聞こえてくるパートを少し押さえて、そうでないパートを強めに演奏させたりする個所があり、ちょっと変わった感じにきこえました。

 そして第4楽章。力強いファンファーレのあと、展開された音楽は、まさしくベーレンライター版を参照したものでした。ちょっと室内楽のような響きもあったりして、最後のほうは、ものすごくテヌートして弾かせていたりと、なかなか面白かったです。

 全体の出来は、初日はアクシデントがあったこともあってか、ちょっとまとまりを欠くように感じましたが、二日目はギュッと凝縮したすばらしい演奏を堪能させてくれました。

 そうそう。Cの初日には、終演後のカーテンコールからステージ袖に引き上げようとしたミスターSが、指揮台の横でマイクのコードかなにかに引っかかって、思いっきりこけるという事故もありました。いくら元気だとは言え、なんせ76歳ですから、一瞬客席もどよめきましたが、すぐ立ち上がり「大丈夫」というジェスチュアをしてくれたのでほっとしました。おまけに、その次のカーテンコールのときは、ケーブルに引っかからないよう気をつけて歩くというのをオーバーアクションでやったもんだから、客席、大ウケ(笑)。

 二日目は、拍手がなりやまないので、コンサートマスターの篠崎さんを連れて袖にひっこもうとするなど、なかなか面白い爺さん(笑)という感じです。
======================= 1999-02-20 (Sat) 23:36:11 ====================


総括

 ということで、1月21日から2月6日まで、約3週間にわたるスクロヴァチェフスキ・チクルスは無事幕を閉じました。

 かつて、外オケが来たときに「セット券」で全プログラムを聴いた事はありましたが、通常の定期を全部、しかも初日・2日目含めて全部聴いたのは初めてでした。

 こうして、短期間にひとつのオケを一人の指揮者で7回も聴いてみると、いろいろなことが見えてきます。一番大きな事は、まぁ、当たり前かもしれませんが、「オーケストラは巨大かつ複雑な生き物」ということです。同じ指揮者が同じ曲を振っても、良いときと悪いときがある。しかも初日が良いときもあれば、二日目が良いときもある...。そして日によっては全然違う響きになることもある。

 巷間、N響は合わない指揮者だと手を抜くとか無気力演奏をするとか、言われていて、私もそう感じたことがあって、良いときには良いときで「いつもこういう演奏をすればいいのに」と思っていました。しかし、これは違うんではないか。確かに出来不出来があることは間違いないとして(^_^;)、これはもはやオーケストラの力では抗うことができるものではないのではないかと。奏者個人個人が何とかしようと思っても、有機的結合体としての「オーケストラ」の力を引き出すのは指揮者であって、指揮者が「と」の場合には、どうしようもないのではないか...。

 ま。いろいろ考える楽しみを与えてくれたチクルスでした。また2000年の秋くらいに来日してくれたらいいなぁ...。そのときのプログラムの要望を書いておきましょう。

A ウェーバー /「魔弾の射手」序曲
  ブルックナー/交響曲第8番
B スクロヴァチェフスキ/自作自演
  ラヴェル /ピアノ協奏曲
  バルトーク/管弦楽のための協奏曲
 又は
  ストラヴィンスキー/ペトルーシュカ
C ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
  プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第2番
  ブラームス/交響曲第1番
======================= 1999-02-21 (Sun) 00:25:29 ====================


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