大阪フィルハーモニー交響楽団第37回東京定期演奏会


日 時:平成10年7月26日(日)午後2時30分〜
場 所:サントリーホール
出 演:大阪フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
    朝比奈隆(指揮)
演 目:ブルックナー/交響曲第5番 変ロ長調(ハース版)


 昨日くらいから、なんとなく落ち着かなくなっていた。

 9時前に目が覚めて、食事をしたあと、ふと思い立って床屋に出かけた。幸い、順番待ちはなし。しかし、あと10分ほど遅れたら3人近く待たされるところだった。  帰宅して、しばし寛いでいると、叩き付けるような雨。これは出かけるのが大変だ...。正午前に軽い食事を済ませ、身支度を始める。午後1時頃家を出ようとすると、雨は上がり、真夏の日差しが降り注いでいる。ものすごく蒸し暑い。薬局で、汗拭き用のウェットティッシュを購入。地下鉄を乗り継いで、サントリーホールに向かう。

 溜池山王の駅で下車。地下通路をとおって全日空ホテル傍にでる。普段だとすぐにエスカレーターで2階にあがってしまうのであるが、今日は、ふと思い立って、バス停の方まで地上を通っていき、正面のエスカレーターをあがった。

 開場15分ほど前であるが、かなりの人があふれている。「チケット求む」のカードを掲げた人が数人いた。  また、警備とおぼしき人員があちこちに立っている。あ〜、こりゃ〜また誰か来るのか...。ふと見ると、元最高裁判所長官の某氏(に間違いないと思う)がいる。ふ〜む。

 ほどなく、パイプオルゴールが鳴り出し、開場。暑いので、さっさと中に入って涼むことにした。

 ロビーでは、朝比奈先生のCD(大フィルとの「アルプス交響曲」や、最近出た、昔の外国での録音をCD化したものなどもあった)が販売されていた。それと、「朝比奈隆90歳」という小冊子。対談や演奏記録などをまとめたものであった。これは、昨日、朝比奈会から送ってもらっていたので、改めては購入しなかった。

 洗面所に行き、ウェットティッシュで顔を拭く。顔の火照りが引いて、落ち着いてきた。97年3月のN響のときほどではないが、かなり緊張している自分に気がついた。席につき、パンフレットなどを眺めてすごす。段々と客席が埋まって行く。

 ステージでは、コントラバスの一人が冒頭のピチカートをさらっている。そして、オーボエ奏者が練習に余念がない。何でも大阪では、例の弦のピチカートの6連符の上で奏でられるオーボエソロがとちったとかで、その関係かもしれない。

 2階のRAブロックにカメラの放列ができた。RBの2列目の9.10に赤いカバーがかかっていて、その後ろが全部空いている。
 開演の合図がなり、オケのメンバーがそろった。そこで2階から拍手が。なんと天覧コンサートであった。それにしても、前回の天覧コンサートもブルックナーの5番であったところをみると、天皇陛下はブルックナーの5番が好きなのだろうか。

 さらに気分が高揚したところで、コンサートマスターが入場。熱い拍手。

 チューニングが済み、しわぶき一つ聞こえない静寂が、ホールを支配する。その静寂を破る拍手の波がホールに広がっていく。モーニング姿の朝比奈先生の登場である。

 指揮台のところで、いつものように、コンサートマスターに握手を求めようとするのだが、コンサートマスター(いつもの人ではなかった。いつもの人は内側になっていた。)は客席に正対してしまい、朝比奈先生に気がつかない。先生が苦笑して、2・3歩よっていくと、ようやく気がついて握手を交わしていた。

 演奏前から凄い拍手の渦ができている。先生は、貴賓席に深々と一礼して、客席に向かって一礼。そして、くるりとオケに向き直る。

 あっけないほどあっさりと、棒が振り下ろされ、チェロとコントラバスが、ピチカートをゆったりと刻み始める。他の弦が絡み合い、美しいアンサンブルを奏でていく。

 休符。先生は、愚直なまでに、休符の部分を空振りしていく。そして一閃、静寂に楔を打ち込むような高らかなトゥッティが鳴る。テンポが変わる。棒の動きも速くなる。ただ、テンポは、かなり遅い。そして一つずつの音を全部きちんと鳴らさせようとする演奏のようである。

 第1楽章の最後の音が消えたところで、息の詰まるような静寂。棒が降りてほっと息を抜いた。第1楽章から、物凄くコクのある演奏を聴かされて、大満足である。

 第2楽章。先日のオトマール・マーガは、6連符をまとめて1つ振りで、かなり早いテンポで振っていたが、朝比奈先生のは、6連符の1つ1つを1つずつ振っていく。その上に乗るオーボエのソロ。美しい。  そして悠々たる弦楽合奏。思わず目を閉じて、肌で感じる。うねりながら、何度も同じ主題が、少しずつ形を変えて繰り返されていく。最後は金管の分厚い響きがホールに広がり、やがて、諦めのように、小さく、小さく...。

 第3楽章に入る前に、金管の別働隊が入ってきた。私の席はかなり前のほうだったので何人くらい加わったのかは正確にはわからなかったが、9人は入ったのではないだろうか。

 第3楽章は、生き生きとしたスケルツォ。嵐のような導入部から、一転してやさしい3拍子になるところあたりは、見事なまでの切り替えであった。そして最後は、ンパパ パパパ パパパ パパパ パパパ パン! ホールに余韻。

 いよいよ、第4楽章。早く聴きたくて、でも終わって欲しくない第4楽章。クラリネットの警告もきっちりと入り、第2楽章の回想のオーボエも無事。そして、フーガの開始。

 金管のコラールの提示。肉厚な音がホールに響く。190小節のところで、トランペットの音が一つ落ちて、一瞬ギクッとしたが、大事故にはならず、ほっとした。

 あとは、様々な楽器が絡み合いながら、コーダに向かって進んでいく。くるぞくるぞ...。
 バァーーーン!!! バァーーーン!!! パンパン バーーバ バァーーーン!!! バァーーーン!!!

 うわぁ...す、すごい。まさしく音の大伽藍。サントリーホールがシュテファン教会のような、仰ぎ見る大聖堂となった。

 そしてティンパニーの連打の中で、最後の音が迫ってくる。

 バァン!!!!  しばしの静寂。そしてこの世のものとは思えないような歓声。かなうことならば、ホールを持ち上げて揺さぶって喜びを表したいといわんばかりのブラボーの声。

 普段は、一般参賀状態(って、今日はほんとの一般参賀もあったのだが(^_^;))になるまで、あまりスタンディング・オベーション状態にはならないのであるが、今日は、オケのメンバーが引っ込む前の、普通のカーテンコールの段階で総立ちになった。

 朝比奈先生は、両陛下の席に向かい、深々とお辞儀をして、そして各客席に向かい、答礼。3回くらいのカーテンコールで、オケのメンバーは引き上げ、朝比奈先生への参賀へ(笑)。

 かなり長い時間拍手を受けられたあと、再び両陛下に深々とお辞儀をして退場。ここで、ほんとの参賀へチェンジ。RBブロックの一団が退場するまで、長い拍手が続いた。

 ここでお開きと思ったら、再び袖の扉が開いて、朝比奈先生のお出まし。雰囲気としては、呼び出しは1回で終わりという感じだったのだが、出てきていただけた。皆大喜びで、再度熱いブラーボ!!

 あ〜。凄かった。もう、400グラムくらいの分厚いステーキを食べたような満足感。頭がぼーっとなって、何も考えられない。
 しかし、こんな凄いブル5を聴いてしまったら、いったいこのあとどうしたらよいのだろうか。ベルリン・フィルもあるけど...。N響のブル8に続いて、ブル5も今回で封印するしかないのだろうか(って、ブル8は秋にまた朝比奈先生の棒で聴くのですが(笑))。
======================= 1998-07-26 (Sun) 21:16:22 ====================


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