朝比奈隆&新日本フィル ベートーヴェン・チクルス 1


日 時:平成9年9月25日(木)午後7時〜
場 所:サントリーホール
出 演:新日本フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
    朝比奈隆(指揮)
曲 目:ベートーヴェン/交響曲第1番 ハ長調  作品21
       〃     /交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」


 いよいよ東京でのベートーヴェン・チクルスが始まった。

 ただ、聴き流すのは、あまりにももったいないので、スコアとCDを買い、「朝比奈隆ベートーヴェンの交響曲を語る」に目を通し、まず勘所を押えた。しかし、あまり先入観を持って技術的に聴きすぎてもつまらないので、自分なりに消化した後は、引きずられないようにして今日を迎えた。

 チケットは、当然のことながら、売り切れ。開場前から、ホール前にはすでに人があふれていた。

 最初の曲は、交響曲第1番。自分としては、九つの交響曲の中で一番なじみが薄い曲であった。そんなこともあって、「予習」にも熱が入った曲でもあった。

 第一楽章の最初のピチカートから、たっぷりとした響き。初演当時は、こんなにたっぷりとした響きではなかっただろうし、現在でもNAXOSから出ているドラホシュの指揮によるベートーヴェンの全集などは、小編成のオケで、もっとライトな曲に仕上げている。

 しかし、今回のような比較的大きな編成でやっても、決して「厚化粧」にならないのが、さすがベートーヴェンといったところか。第4楽章の冒頭など、まさに堂々たる演奏といった感じで、最初から非常に濃厚な、しかしそれでいて決してくどくない味付けを楽しませてくれた。

 休憩時に、一階のバーカウンターで、知人とお話。「のっけからこんな濃厚なのを聴かされたら、後半の英雄なんかどうなっちゃうのかな〜」など。

 後半の、「英雄」。
 これは、まず、第一楽章の最初の「ジャン! ジャン!」に驚かされた。文字ではジャンと書いたが、こんな生易しいものではない。オーケストラが雷になっていきなり襲いかかってきたような...それでいて、叩きつけるようなものではなく、豊かさをも含んでいるような。

 そして、今まで聴いた演奏だと、最初の二つの音は、それぞれ4分の3拍子の一拍目であることがはっきりしていた。「ジャン・2・3 ジャン・2・3」というふうに。今日は、この二つの音は、3拍子から独立しているようにきこえた。おもむろにチェロが歌い出す。そこから新しく曲が始まるかのように。

 この部分、「英雄」というタイトルにあるように、やや速めのテンポでさっそうと歌ってしまうのが大方の演奏であるが、今夜の演奏は、ビオラの刻みをきっちりと弾かせて、旋律を歌うチェロも、ビオラの刻みにあわせて歌っていくという風な音楽作りをしていたようにおもえた。聴きようによっては、「やぼったい英雄」という見方もあるかもしれないが。刻みの部分を弾くビオラの奏者をじっと見ていた。ある意味ではつまらないパートかもしれないが、みな、体全体を使うようにして弾いていた。

 第二楽章の「葬送行進曲」、これがまた圧巻だった。テンポを思いっきり遅くして、弦はたっぷりとした響き。管も、吹くべきところは納得がいくだけ吹ききったのではないだろうか。前回の新日本フィルとのチクルスで、もっと鳴らしてほしかったと省みていた部分も、よく鳴っていたし。

 たしか、この楽章だったと思うが、棒が止まり、弓が弦から離れ、音がこちらからきこえなくなってからも、なお弦をしっかりと押えてビブラートをかけていた奏者がいた。

 第三楽章は、そうテンポは落とさずに、実に爽快な演奏。ホルンの重奏の部分も、非常によかった。
 第四楽章は、冒頭の弦の下降で始まるところが、非常にゆっくりしたテンポで、ちょっと驚かされたが、途中から追い込むような演奏で、一気に最後まで行った。

 ブルックナーのときのような強烈なカタルシスこそないものの、ベートーヴェンで、これだけ厚みのある演奏を聴かせてもらえるのは、素晴らしいことである。
 次回は2番と5番という組み合わせ。これも期待できそうである。
======================= 1997-09-25 (Thu) 23:50:09 ====================


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