NHK交響楽団定期演奏会97年9月Cプロ初日


日時:平成9年9月5日午後7時〜
場所:NHKホール
出演:NHK交響楽団(管弦楽)
    中村絋子(ピアノ)
    エフゲーニ・スヴェトラーノフ(指揮)

曲目:チャイコフスキー/スラブ行進曲 作品31
             /ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
             /交響曲第5番 ホ短調 作品64


 N響定期の開幕。朝から心うきうきであった。何せ、先週から今週にかけて、毎日死ぬ思いで仕事をしてきたので、今日はN響で命の洗濯。おまけにオール・チャイコ・プロで、大好きな交響曲第5番がある。指揮はスヴェトラーノフ、さらに中村紘子のピアノ。期待するなというほうが無理である(笑)。

 普段は渋谷からバスでNHKホールに来るが、今日は明治神宮前駅から代々木公園を通って歩いてホールに行った。日が短くなったものだ。代々木公園ではひぐらしが鳴いている。夕方が涼しくなり、とても気持ちがよい。

 例のごとく自由席を買って、えっちらおっちらと3階席に上がっていった。通路ぎわに席を取り、ロビーでサンドイッチと飲み物で食事。鞄が邪魔なので、クロークに預けるため、再び1階へ。少しホール内を散策した。3ヵ月ほど前に、ここでMETが豪華絢爛な歌絵巻をくりひろげたのを思い出した。

 荷物を預け、自分の席に戻ると、自由席は既にほぼ9割以上埋まっている。さすがシーズンの初日で、しかもオール・チャイコだと人気が高いのか...。ところが客層が中学生の女の子が多い。それもみんな同じ制服を着ている。おい〜またインバルのプル5のときと同じかよ〜と一瞬思った。たしかに、開演前は結構賑やかだった。ところが、開演後は、信じられないほどの静けさ。私語はゼロ。とても中学生の女の子が大量に入っているとは思えない状況であった。どこが違ったかといえば、引率の教師が居なかったこと。まぁ、聴きに来たい人だけが来ているのかもしれないが、それにしても、「無能な教師は、無能な指揮者と同じで、いるとかえって邪魔になる。」というのを実感した。

 さて、演奏。

 最初のスラブ行進曲から、もうスヴェトラーノフの世界。あまりブンチャカブンチャカせず、それでいて決して甘くない。ところどころ弦を抑えて、管を浮き立たせてみたり、なかなか面白い。

 1曲目が終わったところで、スヴェトラーノフは袖に下がらず、ピアノの準備を待つ。完全に黒子に徹しようとしている。それにしても、指揮者が袖に下がらずにソリストだけが出てくるというのは、はじめてみた。

 2曲目は、ピアノ協奏曲第1番。超おなじみの曲である。中村紘子の自由闊達な独奏をじっくりと楽しんだ。多少ミスタッチはあったが、そんなことは問題とならないような素晴らしい演奏。そして、第2楽章の冒頭の小出さんのフルートソロがまた美しかったこと。スヴェトラーノフの指揮は、無駄が無く、ところどころ完全に振るのを止めてしまう。曲が終わったあとは、自分は一切拍手を受けず、ソリストだけにカーテンコールをさせていた。

 3曲目は、交響曲第5番。大好きな曲である。N響で聴くのは、昨年の2月に、同じCプロでスクロヴァチェフスキが振って以来である。果たしてスヴェトラーノフが「本場もの」をどう聞かせてくれるか。

 第1楽章は比較的速いテンポで、普通は弦に隠れてしまうような管(特に木管)のパッセージを強調して聴かせてくれた。

 圧巻だったのが、第2楽章。松崎さんの素晴らしいホルンソロ。茂木さんの可憐なオーボエソロ。珠玉とはよく言ったものだ。そして、弦は、あえて淡々と弾き進み、最後の最後で思いっきりカンタービレ!もしかすると、スヴェトラーノフはこんなことを言ったのかもしれない。「この曲は、楽譜通りに弾けば歌うようになってるんだ。それを歌いすぎたら、かえって嫌らしくなる。」そう思えるくらい、途中までは泣き節にならず、最後の最後で弦が一気に涙をほとばしらせるようにはじけた。そして、楽章の最後は、クラリネットが消え入るように...消え入るように...ピンと張り詰めた沈黙のときがしばし続いて、ふっと空気がゆるんだ。

 第3楽章は、打って変わって軽やかなワルツ。体を前後にゆする様にして指揮をしていた。

 そして第4楽章。序奏でエネルギーを貯め、一気に爆発してアレグロへ。金管のバランスも凄くよい。ついつい咆哮のようになってしまうけれど、実に美しかった。コーダの部分は完全に指揮をせず、オケに任せていた。そして最後は力強いフィナーレ。

 曲が終わったとたん、割れんばかりの拍手。ブラボーの嵐という風にはならなかったが、熱い熱い拍手が続いた。スヴェトラーノフは、ソリストを次々に立たせる。そして松崎さんに至っては、ホルンのところまで自ら迎えに行って、指揮台のところまで連行してきてしまった(笑)。

 「名曲コンサート」じゃんと言われるかもしれないが、なじみの深い曲はやはり楽しい。もちろん、なじみのない曲にもどんどんチャレンジして、守備範囲を広げたいとは思うが、やはり「ハンバーグステーキ」「カレーライス」も捨て難い。おまけに、今日みたいな素晴らしい演奏をされるとなおさらである。
======================= 97/09/06(土)00:04:03 ====================


コンサートレポート’97表紙に戻る