日 時:平成9年5月30日(金)午後6時30分〜
場 所:NHKホール
演 目:1 マスカーニ/カヴァレリア・ルスティカーナ(全1幕)
2 レオンカヴァルロ/道化師(プロローグ付全2幕)
出 演:カヴァレリア・ルスティカーナ
トゥリッドゥ :ファビオ・アルミリアート
サントゥッツァ:マリア・グレギーナ
ルチア :ステファニー・プライス
アルフィオ :ブルーノ・ポーラ
ローラ :ウェンディ・ホワイト
農夫 :リンダ・メイズ
合唱 :Tokyo Memorial Chorus' Society
道化師
トニオ :ファン・ポンス
カニオ :プラシド・ドミンゴ
村人 :ティム・ウィルソン、ジョセフ・バリソ
ネッダ :エリザベス・ホレクイ
シルヴィオ :キム・ジョセフソン
指揮 :ジェームズ・レヴァイン
管弦楽 :メトロポリタン歌劇場管弦楽団
合唱 :メトロポリタン歌劇場合唱団
少年少女合唱 :TOKYO FM少年合唱団、名古屋少年少女合唱団
合唱指揮 :レイモンド・ヒューズ
副指揮 :ジェーン・クラヴィター
演出・装置・衣装:フランコ・ゼッフィレッリ
演奏会形式ではない本物のオペラに接するのは、実は今回がはじめて。それがMETということであるから、贅沢な話である。 午後1時に横浜で一件仕事をやって、その後「梅香亭」という古い洋食屋でハヤシライスを食べ、東横線に乗車。中目黒駅で降り、気になっていた物件の状況を確認。そのままいったん帰宅。家で少しくつろぎ、再び着替えて家を出る。約15分で、渋谷区役所のバス停着。
ホール近くで、またもやパスタ330グラムを平らげ、赤オレンジのジュースを楽しむ。後から後から、明らかにMETに来た客が押し寄せてくる。
開場が5時45分ということで、5分前くらいに店を出て、ホールに向かう。ホール前にはすでに行列ができている。ゆっくりとホールに入る。通いなれたNHKホールが、なんとなく別の場所のようにも感じると同時に、自分の身内の晴れ舞台のようにも感じる。
ロビーでまずプログラムを買い求め、記念品販売のコーナーへ。メトのロゴが入ったバッグを二つ買い求めた。一つは自分用。もう一つは、ボスの奥さんへのお土産である。
聴衆の服装もさまざま。しかし、やはりMETということで、正装・盛装した人たちが行き交う。買い求めた記念品類をまとめてクロークに預け、セカンドバックとプログラムだけを持ち、席に向かう。今回はB券で、席は2階センターブロック左から6列目の前から17番目だった。
廊下で、グリーのときの先輩に声をかけられた。9年ぶりくらいだろうか。席を見せてもらうと、私らより5列ほど前。ところがランクはS席。なんとも申し訳ないというか...あそこと私の席とでランクが2段も違うとは、到底思えないのだが。ちなみに舞台全体を見るためには、NHKホールだと2階くらいがちょうどよさそうに思えた。
いよいよ開演。すでにオーケストラのメンバーはピットに入っている。扉が閉まり、チューニング。レヴァインが登場。明かりが完全に落ちて真っ暗になった。カヴァレリア・ルスティカーナ。「ママも知るとおり」「いい加減にしないか。サントゥッツア」「ママ、このぶどう酒は強いね。」と、ところどころは聴いたことがあるが、通しで聴くのははじめて。
序曲に続き、サーっと幕が開いて、舞台が広がる。教会の入口がしつらえられている。階段のところにサントゥッツアがうずくまっている。サントゥッツァ役のマリア・グレギーナ。4月のサントリーホールのコンサートで、ダニエラ・デッシーの代わりに歌い、素晴らしい声を聴かせてくれた。この日も、「ママも知るとおり」をはじめ、期待に違わぬできであった。
トゥリッドゥ役のアルミリアート。見た目は、トゥリッドゥにマッチしていていいのだが、ちょっと声の線が細すぎる。もう少し厚みが欲しい。この人がカヴァラドッシを歌う「トスカ」の追加公演のチケットが残っているようだが、食指はそそられない。
それよりも、特筆すべきはオケの音色の美しさと合唱の見事さ。間奏曲の弦の艶やかな響きには実に感動した。また随所に出てくる合唱も非常によくトレーニングされていて、11日のヴェルレクがまた楽しみになった。
休憩の間はロビーを散策する。またもやバーに行き、スパークリングワインで喉を潤し、入口付近に行ってみる。テレビ東京が後援しているということで、八塩アナが来ていた。
後半は、道化師。20年前にイタリア・オペラの来日公演がテレビで放映された際、ドミンゴの歌・演技に魅了された。そのドミンゴを生で見られるとは。
序曲の後の、トニオ(ファン・ポンス)の口上がまた、素晴らしい。 ドミンゴは、名古屋ではあまり調子が良くなかったとかで、カーテンコールには一人では出てこなかったと小耳に挟んだが、この日は絶好調とまでは行かなくても、よく声が出ていた。それと演技が凄くよい。
前半の最後の名場面。「衣装を着けろ」の熱唱・熱演に接し、「あ〜俺は何とかドミンゴに『間に合ったぞ』」という喜びで胸がいっぱいになった。ふと、通路を隔てたところに座っているおじさんを横目で見ると、涙をホロホロと流している。どんな思いがこの人の胸に去来しているのか。20年前の舞台を思い出しているのか、ウィーンのオテロで声を失ったドミンゴのことか...。
後半は、劇中劇から段々と現実と劇の区別がつかなくなっていくカニオを、ドミンゴは、実に見事に演じていた。あたり役、はまり役と言葉では簡単にいうが...「もう、道化師じゃない。」に入ったあたりでは、思わず拳を握り締めていた。ネッダを刺し殺し、自ら「喜劇は終わりました。」と叫ぶ。イタリア・オペラのときは、劇中劇の幕を閉めさせ、その前で泣き崩れるという演出だったが、今回はネッダの亡骸を抱きかかえて泣き叫ぶという演出であった。
幕が下りたあとは、拍手喝采。カーテンコールでは、物凄いブラボー攻撃。ポンス、ドミンゴ、そして指揮のレヴァインに、総立ちで拍手。舞台袖から、花がポンポンポンと投げ入れられる。ドミンゴも今日は納得が行ったと見えて一人でカーテンコールに出てきてくれた。
客席が完全に明るくなり、お開き。しばし、ぼう然として帰途につく。普段とは異なり、バス停に向かう客はほとんどいない。みな渋谷駅に向けてぞろぞろと歩いていく。 いや〜しかし、生でオペラを見るというのが、こんなに素晴らしいものだとは...テレビなどで見ていると、どうしても途中で飽きてきたりするが、生だと、全く集中力を削がれない。
今日(1日)は、パヴァロッティの「トスカ」。実に楽しみ。
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