NHK交響楽団 定期演奏会(5月Cプロ2日目)


日 時:平成8年5月11日(土) 午後2時15分〜
場 所:NHKホール
出 演:エリアフ・インバル(指揮)
    イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)
     NHK交響楽団(管弦楽)
曲 目:ストラヴィンスキー/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調
     ブルックナー   /交響曲第5番 変ロ長調(原典版)


 新宿で買い物をして渋谷行きのバスに乗り、渋谷区役所前で下車。NHKホールに向かう。制服姿の女子中学生がやたらといる。放送センターの見学にでも行くのだろうと、たいして気にもとめていなかった(そのときは。)。

 ホール前に到着。先程と同じ中学生の集団がいる。(をい。まさか...)。当日券売り場に行く。普段はできていない列ができている。更に不安が高まる。窓口のプレートを見ると、E券・・・売り切れ。むう。これは確実であろう。中学生集団の集団鑑賞のようである。それも半端な人数ではない。とりあえずD券を購入した。

 指定席なので、あせる必要はなくなった。軽く食事をして、2階で室内楽を少しだけ聴いた。3階に上がると・・・いるわいるわ。女子中学生集団。有象無象とはよく言ったものである。男子トイレに委細かまわず入って行くわ、客席で遥かかなたに座っている友人を大声で呼ぶわ。

 おまけに、よりによって私の席は、小娘どものすぐ近く。思い切って1階席を買っておくんだったと後悔しても後の祭り。

 食事をしていたとき、1階のロビーで「学生のお客様は、他のお客様の迷惑にならないよう...」などとアナウンスをしているが、当の本人たちには全く届いていない。引率の教師も、ただ「シー」と言うだけで、無能をさらけ出している。(ったく。こんな小娘ども全員にむりやりブルックナー聴かせてどうするんだよ)と思うが、如何ともし難い。「都響事件」の二の舞になったら...心が千々に乱れる。そうこうしているうちに、開演時刻になる。まだ騒々しい。団員がステージに姿を見せ、全員が揃い、チューニング。客席の照明が落ち、ようやく落ち着く。

 ステージのメンバーをみると、コンサートマスターは山口さん。それから、チェロのトップ2人は、名前を知らないが、若杉さんのときのブル8を弾いたときと同じメンバーで、ひそかにひいきにしている(笑)人であった。

 インバル氏とギトリス氏が並んで登場。ギトリスは、もっと若いと思っていたが結構年配だった。 ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲というのは、初めて聴く曲で、そもそも、そんな曲が存在していることも知らなかった。曲の感想は...書けない。全然演奏に集中できなかったから。演奏が始まっているのに小声でしゃべったり、楽章の合間にわざと大きな咳払いをしたり...正直いってキレる寸前であった。さりげなく学校名を聞きだして、学校相手に損害賠償請求訴訟でも起こしてやろうかと思ったくらいである。

 前半の演奏が終わったところで、数名が荷物を持って動き出す。中には、レセプショニストに「うるさくて演奏に集中できないよ!」と鋭い口調で吐き捨て出て行った人もいた(帰ったのか、2階に移ったのかは不明)。なかには、ギトリスのヴァイオリンが聴きたくて来た人もいただろうから、その人のことを考えると、ほんとに気の毒になる。

 私も、ざわついた小娘集団に邪魔されてブルックナーを聴く気はないので、荷物を持ち、レセプショニストと交渉。こんなところで仕事の顔に戻るのはいやだったが、仕事より重要なブルックナー(笑)であるから、厳しく「交渉」した結果、時間的に席の交換はできないが、空いている席に移動してよいということになる(こんなん、交渉せんでもできるって(笑))。

 幸い(本当に「幸い」とはこのことである。)、3階センターの一番の通路側に空席(おそらくは定期会員席であろう。)があったので、休憩終了直前にそこに移動する。先程とは全く別世界のようである。

 再び団員が登場。管も充実している。ホルンには松崎さんがいる。チューニングを終え、静寂。よしよし。インバル氏が登場。指揮台にたち拍手に応え、オケに向かう。指揮棒が動く。コントラバスがピチカートで下降音階を刻む。弦が静かに滑り出す。ブルックナーの世界がゆったりと広がっていく。休止符のあと、力強い弦の旋律そして金管の響き。さきほどまでの苛立ちが、まるでうそのように演奏にのめり込んでいく。

 実はブル5をちゃんと聴くのは初めてである。大学1年の頃、クナッパーツブッシュのレコードを聴いて、あんまり好きになれなかった(版の問題はともかく)のがそのまま尾をひいていた。

 第1楽章の力強い終止。そして第2楽章。美しい弦楽合奏と金管のコラール。しかしN響の管セクションはなかなか好調である。第3楽章は、ちょっと交響曲第7番の第3楽章にも似ていた。第4楽章は、圧巻の一言。永遠に続くと思えるような弦と管の饗宴。これがブル5か。なんという重厚な響きだろう。コーダの最後の音が消えた後は、心から拍手をおくった。「ブラヴォーーーーーーーッ」という物凄い声が飛んでいる。私も、素晴らしいソロを聴かせてくれたホルンの松崎さんに、ちょっとだけブラヴォーをおくった。

 小娘たちへの苛立ちは完全に消えていた。むしろ「どうだい!君達!これがブルックナーだ!」と声をかけてやりたくなるような、素晴らしい演奏だった。
======================= 1996/05/11(Sat) 21:47:00 ====================


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