ウィーン・フィル ウィーク イン ジャパン 2001(1)


日時:2001年10月19日(金)午後7時〜
場所:サントリーホール
出演:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)
   サイモン・ラトル(指揮)
曲目:ベートーヴェン/交響曲第1番
          /交響曲第3番
   (アンコール)
   シベリウス/鶴のいる風景


 前回のアバドによるチクルスのときは、司法試験受験中だったので、サントリーホールに足を運ぶことも出来ず、FMで聴いていた(そのときの録音はまだ残っている)。あれから約15年。今回ようやくウィーン・フィルでベートーヴェンの交響曲全曲を聴くことができるチャンスに恵まれた。

 第1番。コンサートマスターはキュッヒル。和樹ヘーデンボルクがフォアシュピーラーの席に座っていた。まずはこれに驚かされた。今までの来日公演では、トップは常に二人のコンサートマスターが座っていたのに。オケは通常の並びと違ってヴァイオリンが両翼配置でプルトは4組。比較的小編成である。
 ラトルの指揮に接するのは初めてである。CDで5番を聴いていたから、予想はしていたが、グイグイとオケを引っ張っていこうとする。普通、ウィーン・フィルはこういうタイプの指揮者にかかると抵抗を示すはずだが、懸命に食いついていこうとしている。今までに聴いたのとは全く違う音がウィーン・フィルから出てくるのに、ちょっととまどいがある。最近はこういう古楽の要素を取り入れた演奏がはやりのようだが...。かなりテンポが速く、しかも、あまり鳴らさないで最後まで行ってしまったという感じ。ちと不満が残る。もっとも、これは私が朝比奈さんの指揮での1番・3番を刷り込んでいるとあるが...。

 第3番。キュッヒル、ホーネックの2トップ。こちらも、実にすっきりとした音楽。普段のウィーン・フィルのように、各楽器が渾然一体となって響いてくるというのではなく、やや大編成の室内楽のような感じ。もちろんバラバラではないが、各セクションそれぞれが聞き分けられるような輪郭のはっきりとした演奏である。

 第2楽章は圧巻だった。途中でゲネラルパウゼのような部分をつくり、そこから最弱音でテーマを演奏させたり、最後の引きずるような音は、まさしく葬送行進曲。その最後の音が消えた後の会場の静寂は快感ですらあった。

 第3楽章・第4楽章は一転して疾走していく素晴らしさ。しかしそれでいてただ速くて軽いだけではなく、コーダの部分などは弓をタップリと使ったウィーン・フィルの音を聴かせてくれた。管セクションも実に生き生きと「アンサンブル」を楽しんでいた。

 アンコールに演奏されたのが、シベリウスの「鶴のいる風景」。ラトル自ら日本語で曲をアナウンスしてくれた。これがまた実に美しい。こんなに切ない響きを聴くのも初めて。ワルツ・ポルカも楽しいけど、こういう曲をアンコールにもってくるというのも、ラトルらしさというところか。

 初日は、総じて「今までにないウィーン・フィル」に接して、とまどいの方がやや大きかったという感じ。多少覚悟はしていたが、あまりソースなどで飾り立てない、素材の味を活かしたヌーベルキュイジーヌ仕立ての料理を出されたという感じか。表向き「これは新鮮だ。これからの主流はこれだ。」と賛美しながらも、内心「コテコテのクリームソースが好きなんだけどなぁ...」とつぶやいてしまう複雑な心境とでもいうべきか。

2001.10.21

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