初秋に聴く「白鳥の歌」−朝比奈・大フィル敬虔なるブル9−


朝比奈隆の軌跡2001−ブルックナー後期交響曲選集(第2回)−

日時:2001年9月24日(月)午後3時開演
場所:ザ・シンフォニーホール
出演:大阪フィルハーモニー交響楽団(管弦楽)
    朝比奈隆(指揮)
曲目:ブルックナー/交響曲第9番 ニ短調(ハース版)



 「軌跡2001」も最終回。ザ・シンフォニーホールでブルックナーの5番、8番、9番を聴けるという素晴らしい企画であった。土曜日の夕方や休日の午後という、東京からも宿泊なしで聴きに行ける日程ということで、かなりの人たちが大阪に足を運んだようである。

 5番は絶品、8番は敢闘賞というのが私の感想。さて、推進力だけで勝負できない9番をはたしてどんな風に聴かせてくれるのか、N響との9番ではずいぶんとぎくしゃくしたところがあったが、手兵大フィルではどうか。そんなことを考えながら、東京駅から新幹線に乗った。4月は雨、7月は猛暑。そして今日は爽快な秋晴れであった。普通、東京から新大阪に移動すると、どこかでは曇るものだが、3時間ちかく快晴だったのは初めて。車内はガラガラ。連休の最終日の午前中に移動する人もいないだろうと予想してはいたが、自由席の3人掛け席を一人で悠々と使えたのは助かった。4月の第一回のときと同様、大学の授業の資料づくりをする。

 午後1時半過ぎに新大阪に到着。開演には早いが、すぐホールに向かう。ザ・シンフォニーホールへ行くのも3回目。もうすっかり慣れてしまった。

 ホール前の公園でちょっと休憩して中に入る。入り口で配られたチラシの束をみる。・・・あった。「朝比奈隆の軌跡2002」(笑)。日程を見る。あ〜あ(^_^;)。また来年も大阪通いが決定した。メインプログラムのチャイコの4〜6番の交響曲はもちろんであるが、それぞれの前プロがモーツァルトの交響曲39〜41である。これは聴きものだ。

 荷物をクロークに預けて座席へ。この席で聴くのも、今回が最後である。プログラムやチラシを眺めながら開演を待つ。三々五々団員が入ってくる。外オケのように整然と団員が入場するのもよいが、なんとなく集まってくるというのもいい。そういえば、もしかしてステージの椅子が新しくなったかもしれない。

 コンサートマスターをのぞいて、メンバーがそろった。客席が静かになった。そしてコンサートマスターが登場。相当の重圧がかかっていることだろう。チューニングを終えて朝比奈先生の登場をまつ。いつもワクワクする瞬間である。

 堰を切ったかのように拍手が鳴り出す。モーニング姿の先生の登場である。いつものようにコンサートマスターと握手をして客席に答礼。ステージに向き直って指揮棒を持つ。ゆっくりと棒を振り下ろす。神秘的なトレモロがなりだす。

 9番を聴くと、どうしても昨年のヴァント/NDRと比べてしまう。朝比奈先生の棒は、どう贔屓目に見てもわからない。いきおい、コンサートマスターがオケを引っ張る比重が高くなる。今日も、たとえば第一楽章の400小節のあたりは、「コンマス一人旅」をおそれず、グイッとオケを引っ張っていた。だから、どうしても縦の線が不揃いなところがでてくる。こういうのが散見されると、本番における指揮者は何のためにいるのかということを考えてしまうが、あの「音色」を作っているのは朝比奈先生であることはまごうかたなき事実である。第三楽章の練習番号Lあたりは、まさに「白鳥の歌」の名にふさわしい美しさだった。

 テンポは全体としてかなりゆったりとしていた。第一楽章の最後(練習番号X以下)は、じっくりと溜めてユニゾンの三連符で力を爆発させる。第3楽章の最後の部分(練習番号X以下の弦の4分音符)は、もう少し「タメ」が欲しいとは思ったが、この辺は最近の「芸風」ということであろう。

 最後の音が消えて、静寂がホールに満ちた。4月の5番のときと同様に、神様が与えてくれた静寂。聴衆は、この贈りものをしかと受け止めた。先生が我に返ったように、「ヨッシャ」と棒をおろす。熱い拍手がホールに広がっていく。こういう至福のときが、ときどきあるから、コンサート通いはやめられないのである。

 2度ほどのカーテンコールのあと、オケは散会。そして朝比奈先生への歓呼。ザ・シンフォニーホールは、サントリーホールより小振りであるせいか、歓呼の熱気が強く伝わってくる。今日は9番ということで、フィナーレ直後は、熱く柔らかな拍手であったが、時がたつにつれ、いつものような歓呼の声があがってきた。

 一回の参賀で聴衆も散会。午後4時30分過ぎ。外に出ると、まだ夏の名残を残す日差しが降り注いでいる。チクルスの締めくくりを祝って、ミナミあたりにでかけて祝杯を挙げたい気もしたが、自重する(笑)。福島駅から環状線に乗り、大阪駅で乗り換え、新大阪に。予想はしていたが、強烈な混雑。普通指定はどの列車も満席。こうなると自由席は地獄であるから、あっさりとグリーン車を選択。このレポートを書いたり、本を読んだり、居眠りをしているうちに、もう新横浜を通過。慣れると近く感ずるものである。

 午後9時半過ぎに帰宅。軌跡2001は無事終了した。今年は11月に3番を聴くことができる。我が聖地タケミツ・メモリアルでどんな3番を聴かせてくれるか、実に楽しみ。そして、軌跡2002も。

2001.09.30

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